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骨髄は、あとで食べるために保存された?

屋内、秋の屋外、春の屋外で保存した骨髄割合の経時変化を示す原著図4
原著論文 Fig. 4 より 季節・環境別に示した、中足骨に含まれる骨髄割合の経時変化。原著を確認 ↗

骨髄は、動物を仕留めたその日に食べきるしかなかったのでしょうか。イスラエルの洞窟に残った骨と、現代の保存実験から見えてきたのは、食べるタイミングを後にずらす工夫です。

「骨に残る加工痕は、骨髄を取り出すまでの時間について何を教えてくれる?」

まず、研究の舞台から

Qesem(ケセム)洞窟は、現在のイスラエルにある遺跡です。研究が対象にした時代は約42万〜20万年前。ここでいう「ka」は「千年前」という意味なので、420 ka は42万年前を指します。洞窟からは、火を使った跡や石器、動物の骨が見つかっています。

研究者が注目したのは、シカの足首から先にある細長い骨です。専門用語では中足骨と呼ばれます。中は空洞で、そこに骨髄が入っています。骨髄は肉のように外にむき出しではなく、硬い骨に包まれています。骨をすぐ割らずに置いておけば、肉を食べたあとでも中の脂肪を利用できるかもしれません。

骨髄は、ただの「骨の中身」ではありません。この研究で分析したシカの骨髄は、乾燥物の多くが脂肪でした。脂肪は少ない量でも多くのエネルギーを蓄えられます。狩りの成果をその場で全部食べるのではなく、あとで使える形で残せたなら、食料が手に入りにくい時期を乗り切る助けになった可能性があります。

この記事で見るポイント遺跡の骨に残る痕跡季節別の保存実験9週間という結果の意味

骨髄を骨の中に残して、時間を置く

「骨に入ったままなら、どれくらい保つのか」。研究チームは現代のアカシカの中足骨を使い、秋の屋外、春の屋外、屋内に近い環境の3条件で保存しました。週ごとに骨を調べ、骨髄の量や脂肪の状態を分析。別の骨では、皮や腱を取り除き、石器に似た石片で骨を割る作業を行いました。

この実験には二つの目的があります。一つは「中の骨髄が時間とともにどう変わるか」を測ること。もう一つは「時間がたってから皮をはがし、骨を割ると、どんな傷が残るか」を記録することです。洞窟の骨に残る傷を実験と比べれば、食べるまでに時間が空いたかを推理できるかもしれません。

たとえば新しい皮は骨からはがしやすい一方、乾いた皮や腱は骨に張り付き、はがすのに手間がかかります。そのため、道具の傷の数や向きが変わることがあります。研究者は傷を拡大して観察し、いつ皮をはがしたときの傷に近いかを比べました。傷の形を「昔の行動を読む手がかり」にするわけです。

Qesem洞窟の骨と保存実験で生じた骨の加工痕を示す原著図3
原著論文 Fig. 3 より 遺跡資料と保存実験の骨に見られる加工痕。写真・3D画像:R. Blasco。原著を確認 ↗

研究では遺跡の骨に見られる痕跡を、保存実験でできた痕跡と照合します。以下は、保管週数と骨髄量の変化を季節・環境別に示した原著のグラフです。

9週間を左右したのは、季節

秋の屋外条件では、骨髄の脂質は9週目まで比較的よく保たれました。春の屋外や屋内では変化が異なり、劣化は週ごとに進み、とくに3週目以降に目立ちました。骨が外側を覆うことに加え、気温などの環境も保存性を左右します。

図の縦軸は、骨の中に残った骨髄の割合。横軸は保存した週数です。秋の屋外では、0週から9週まで線がほぼ横ばいで、統計的にもはっきりした減少とは言えませんでした。一方、春の屋外では週ごとに低下し、屋内条件でも減少が見られました。「骨に入れておけば、いつでも9週間安全」という結果ではなく、季節や環境で差が出ています。

また、研究が調べたのは主に骨髄の量や脂肪の状態です。これは、現代の食品衛生の基準で保存肉の安全性を試験した研究ではありません。古代の洞窟で実際に何度保存したかを直接観察したものでもありません。ここでの9週間は、特定の場所と季節で行った実験の結果です。

この結果から、どこまで言える?

では洞窟の骨は何を示すのでしょう。Qesem洞窟の中足骨には、肉をすぐに取り除いたときよりも、皮や腱が乾いて骨に張り付いたあとで処理したときに似た傷がありました。実験では、保存を始めて少なくとも数週間たつと、皮をはがす道具の傷に変化が現れました。研究チームはこの似かたから、骨をしばらく置いてから骨髄を取り出した可能性を考えました。

考古学では、こうした「ものに残った跡から、起きた行動を推理する」方法がよく使われます。ただし傷の形が似ていても、別の行動が同じ傷を作る場合があります。これを「同じ結果に複数の原因がありうる」と考え、他の証拠も合わせて判断します。この論文でも、骨の傷だけで断定せず、保存実験、骨の分布、洞窟の環境を組み合わせています。

この研究が面白いのは、古代の人々を「獲物を見つけたらその場で食べるだけ」と考えなくてよい点です。骨を保管してあとで開くという、時間をまたいだ食料管理をしていた可能性が見えてきます。動物の体を、肉・脂肪・骨髄までむだなく使う工夫があったのかもしれません。

原著論文
Blasco R. et al. (2019). Science Advances, 5(10), eaav9822.
doi:10.1126/sciadv.aav9822 · 全文(PMC)

肉を切るだけで、あごの仕事はどれだけ減る?

飲み込む直前のビーツと肉の食片を示す原著図1
原著論文 Fig. 1 より 飲み込む直前のビーツ(上段)と肉(下段)の食塊。未加工・スライス・叩く・ローストの条件が並びます。原著を確認 ↗

肉は栄養密度が高い一方、噛み切るには力が要ります。石器で切る、叩くといった簡単な加工は、食べやすさをどれほど変えたのでしょうか。

肉を食べることと、食べ物を加工すること。初期人類の「噛む仕事」を変えたのはどちら?

実験では、何を比べた?

ZinkとLiebermanが調べたのは、「食べ物の種類」と「食べる前のひと手間」が、あごの仕事をどれだけ変えるかです。成人の参加者にヤギ肉、ヤムイモ、ニンジン、ビーツを食べてもらいました。植物のうち、地面の下で栄養を蓄える部分はUSO(地下貯蔵器官)と呼ばれます。ジャガイモやサツマイモを思い浮かべると近いです。

食べ物は、そのままの状態だけでなく、薄く切る、石でたたく、焼くといった方法でも準備しました。参加者が噛むときは、あごの筋肉に付けたセンサーで筋肉の活動を測り、食べ物を飲み込める大きさにするまでの回数も記録しました。噛んだあとの食べ物を調べ、どれくらい細かく砕けたかも見ています。

ここで大切なのは、筋肉センサーの数字が「人類の祖先のあごを直接測った値」ではないことです。現代の人が決まった食べ物を噛んだ結果を測り、その数値を昔の食事モデルに当てはめました。実験室の測定と、何百万年も前の暮らしについての推定を分けて読む必要があります。

読み進める順番人の咀嚼を実験で測定仮定した食事へ当てはめる化石人類への意味を考える

年間に換算すると、約200万回の差

肉が食事の3分の1を占めると仮定したモデルでは、年間の咀嚼回数が約200万回、割合にして約13%減り、あごの筋肉が使う力の合計も約15%減ると推定されました。200万回という数字は、1日あたりに直すと約5,500回。もちろん、これは化石人類の口を数えた結果ではありません。実験で測った「食べ物ごとの噛む回数」を、仮定した年間メニューに置き換えた計算です。

なぜ肉を入れると回数が減るのでしょう。研究の説明では、肉は同じエネルギーを得るために必要な量が、かたい根菜より少なくてすむ場合があります。毎日の食事で噛む回数が少しずつ変われば、長い時間ではあごにかかる負担の差が大きくなるかもしれません。ただし、食べ物の硬さや切り方、焼くかどうかでも結果は変わります。

肉の割合と加工条件ごとの咀嚼力・咀嚼回数のモデル変化を示す原著図2
原著論文 Fig. 2 より 食事に占める肉の割合と加工方法に応じた、咀嚼力(上)・咀嚼回数(下)のモデル変化。原著を確認 ↗

石器で「切る・叩く」も加えると

次に研究者は、肉を薄く切り、根や芋を石でたたく準備を加えた場合を計算しました。食べ物を飲み込める細かさにする効率(口腔内破砕効率)は約41%高まりました。その食べ方をモデルに入れると、噛む回数はさらに約5%、必要な力はさらに約12%少なくなりました。

たとえるなら、大きなリンゴを丸かじりするのと、小さく切って食べる違いに似ています。口に入る前に道具で小さくしておけば、歯とあごが一から砕く必要はありません。ただし、肉を薄く切るのは肉に有効でも、根菜には「たたく」ほうが向いていました。食材に合った加工方法を選ぶことがポイントです。

図1は、実際に噛んだあとに残る食べ物の粒を比べています。図2は、食事の中の肉の割合や加工方法を変えたときの計算結果です。写真は実験の様子を見せ、グラフはその測定値から作ったモデルを示します。写真とグラフは役割が違うので、同じ「結果」として混ぜずに読みましょう。

肉を切る+根・芋を叩く→口で砕く負担を軽く

進化の話につながる理由

この研究が進化の話につながる理由は、初期のHomo(ヒト属)では、より古い人類の仲間と比べて歯やあご、噛む筋肉が小さくなったことです。小さな歯とあごで、十分なエネルギーを取り続けるには、やわらかい食べ物や、少ない力で食べられる方法が必要だったかもしれません。

研究者の考えはこうです。肉を食べれば、少ない量でエネルギーを得やすい。さらに石器で切れば、噛み切る仕事の一部を手に任せられる。肉食と道具の使用が組み合わさることで、「大きな歯と強いあごがないと食べられない」という制約が弱まり、歯やあごの変化を後押しした可能性があります。

ここから「現代人も肉だけを食べるべき」と結論づけることはできません。この論文は人類進化の食べ方を考える実験です。今日の健康効果、長寿、病気の予防を測った臨床試験ではありません。分かるのは、肉と簡単な加工が、ある想定の食事で噛む負担を減らせたことです。

原著論文
Zink K. D. & Lieberman D. E. (2016). Nature, 531, 500–503.
doi:10.1038/nature16990 · Nature掲載ページ

体重はどちらでより減った?24週間の食事比較

低脂肪群と低糖質ケトン食群の推定平均体重を24週間追った原著図2
原著論文 Fig. 2 より 低脂肪群(四角)と低糖質ケトン食群(丸)の推定平均体重の推移。原著を確認 ↗

低糖質ケトン食と低脂肪食。どちらが体重や血中脂質に大きな変化をもたらすのか。120人を対象にした24週間の無作為化比較試験を見ていきます。

数字ははっきり見える。でも、この試験が答えている問いはどこまで?

試験の設計を整理する

この試験には、体重が多く、血液中の脂質にも課題があった成人120人が参加しました。研究者は参加者をくじ引きに近い方法で二つのグループに分け、一方には低糖質ケトン食、もう一方には低脂肪で摂取カロリーも抑える食事を案内しました。人を無作為に分けて比べる試験は、もともとの体質や生活習慣の違いが結果に混ざりにくくなる方法です。

低糖質グループは、最初の段階で炭水化物を1日20グラム未満にする目標でした。低脂肪グループは、脂肪を総エネルギーの30%未満、コレステロールを1日300ミリグラム未満にし、摂取エネルギーも減らす計画でした。両方のグループに運動の助言と集まりがありましたが、低糖質グループだけに栄養補助食品も用意されました。

つまり、比べたのは「炭水化物の量」だけではありません。食事のルール、カロリーの考え方、補助食品、続けやすさも結果に関わります。研究は食事プログラム全体を比べたもので、一つの栄養素だけの作用を完全に切り分けた実験ではありません。

この試験が見た指標24週の体重変化中性脂肪・HDL・LDL継続率と有害事象

体重変化は低糖質群で大きかった

24週、つまり約6か月後の平均体重減少は、低糖質グループで12.9%、低脂肪グループで6.7%でした。たとえば開始時に100キロだった人の平均に置き換えると、約12.9キロと約6.7キロの減少に相当します。実際の参加者が全員この通りに減ったという意味ではなく、グループ平均です。

最後まで試験を続けた人の割合は、低糖質グループが76%、低脂肪グループが57%でした。食事は、紙の上で効果があるだけでなく、続けられるかも大切です。一方で、途中でやめた人がいると、最後まで残った人だけの結果は参加者全体を代表しにくくなることがあります。研究者は、体重の変化だけでなく、継続率も一緒に見る必要があります。

原著図でも両群とも体重が減り、低糖質ケトン食群でより大きな減少が続いています。論文が報告した24週時点の平均変化は、開始時体重に対して−12.9%と−6.7%でした(P<0.001)。

脂質指標は、すべて同じ方向ではない

血液検査では、中性脂肪は低糖質グループでより大きく下がり、HDLコレステロールはより大きく上がりました。中性脂肪は血液中の脂肪の一種です。HDLは「善玉」と呼ばれることがありますが、数字一つだけで健康全体が決まるわけではありません。

LDLコレステロールについては、二つのグループの変化に統計的な差が確認されませんでした。つまりこの試験から「低糖質ならLDLも必ず下がる」とは言えません。低糖質食を考えるときは体重や中性脂肪だけでなく、LDLを含む複数の検査値と本人の病気・薬を医療者と一緒に見ることが大切です。

低糖質グループでは、便秘、口の渇きなどの軽い不調も、比較グループより多く報告されました。食事を大きく変えると、良い変化だけでなく困る変化も起こりえます。研究では何が起きたかを記録し、効果と負担の両方を比べます。

中性脂肪より大きく低下
HDLより大きく上昇
LDL有意差なし

研究者の結論と、読み手の注意点

まとめると、この試験では、参加した人たちの平均で、低糖質プログラムのほうが6か月後の体重減少が大きく、中性脂肪とHDLにも有利な変化が見られました。これは「この参加者、この期間、この二つのプログラムを比べた結果」です。

研究から分からないこともあります。24週間より先も差が続くのか、糖尿病や心臓病の発症を減らすのか、健康な人や別の年齢層でも同じかは、この試験だけでは答えられません。低糖質グループだけに補助食品があったことも、食事だけの効果を判断しにくくします。

そして「低糖質ケトン食」と「カーニボア食」は同じものではありません。この試験は動物性食品だけの食事を調べていません。肉食を支持する議論に使うときも、研究が実際に試した食事を正確に呼び分けることが、エビデンスを誠実に読む第一歩です。

原著論文
Yancy W. S. et al. (2004). Annals of Internal Medicine, 140(10), 769–777.
doi:10.7326/0003-4819-140-10-200405180-00006 · 抄録(PubMed)
NEO'S VIEW

ねおの視点

骨髄の保存や肉と咀嚼の研究は、動物性食品が人類史の中で重要な資源だったことを考える材料になります。低糖質食の比較試験は、特定の人たちで短期的に体重や脂質が変化したことを示しました。

こうした知見から、肉食やケトン食が人類に合う選択肢の一つかもしれない、という可能性は考えられます。ただし、この3本だけで現代人全員に最適だとか、老化を防ぐとまでは言えません。仮説を持ちながら、研究ごとの対象・期間・限界を確かめていきたいです。

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